『狼は復讐を誓う』(大藪春彦著)
初めて「ハードボイルド小説」というものを読んだ。
正直、想像していた「ハードボイルド」とは違った。
私の中の「ハードボイルド」とは『幻想水滸伝Ⅱ』に出てくる探偵のイメージが1番強いのだが、恐らく間違った認識なんだろう。
こういうものが「ハードボイルド」というなら私が読んだものの中で近いのはコナン・ドイルの作品群や『インディビジュアル・プロジェクション』(阿部和重)等だろうか。
コナン・ドイルは推理小説家、阿部和重には純文学作家(この作家もよく分からないが今も『文学界』で連載しているのだからそう呼んでいいだろう)という肩書きがある。
肩書きとは何ぞや、という気もしてくる。
大藪春彦の他の作品を読んだ事はない。
ハードボイルド小説作家の彼も推理小説や純文学を書けたりしたのだろうか。
ちょうど『狼は復讐を誓う』と同時期に『アクロイド殺し』(アガサ・クリスティ)を併読していた。
クリスティが人間心理を読ませるお手本のようだとしたら『狼は~』は物を読ませるものとして対称的だった。
食べ物が美味しそうに描かれるのはジブリ作品を思い出したが、目立ったのは銃と車か。
ルパン三世だって銃や車なしには描かれない。
差詰男のロマンというやつなんだろう。
「初めてハードボイルド小説を読むんだ」と意気込んでいたせいか。
私の中で「ハードボイルド=食物と銃と車」になってしまったではないか。
ただ、主人公を取り巻く全ての食べ物、銃、車がファッションのような登場の仕方であるのが印象的だった。
銃や車の固有名詞も頻繁に登場してくる。
しかしそれらに対するフェティシズムや思い入れのようなものは全く感じなかった。
ここに思い当たって初めて、ハードボイルド小説の主人公の資格を認識する。
目的を達するために人に対して無情なだけではない。
モノに対する距離感もまた必要とするキャラクターなんだろう。
ここまで長々と書いたが、要は「私の読書経験の少なさを思い知らされた苦い読書体験だった」ということだ。